序 この世界において多大な影響を与えてきた聖書
人権、医療、音楽、芸術、法律、学問、科学、福祉など、暮らしと生活においてなくてはならないものを与え続けてきたキリスト教(聖書)ですが、日本においては、「キリスト教についてよく知らない」という方が多いようです。
正しい知識を持つと、この聖書の言葉は、あなたに大いなる生きる力と希望を与えてくれるものになるに違いありません。
聖書は今もなお多くの人に読まれています。ヨーロッパやアメリカだけでなく、日本でも毎年最もたくさん売れているのは聖書であり、本当の意味で世界のベスト・セラーです。日本では19世紀から現在までに約3億冊の聖書が配布されました。また世界中では毎年6億冊以上が売られています。このような事実を見ると、聖書には何か人の心をとらえるものがあると思われます。この章では聖書がどんな本であるかを学んで行きます。

1 聖書の成り立ち
聖書は旧約聖書と新約聖書の2つの部分からできています。旧約聖書は古い契約という意味があり、全部で39巻あってイエス・キリスト以前に書かれたものです。日本聖書協会発行の新共同訳聖書なら1ページから1502ページまでです。
また、新約聖書は新しい契約という意味があり、全部で27巻あります。こちらも新共同訳聖書によると1ページからはじまって480ページに至っています。新約聖書はイエス・キリスト誕生以後に書かれたものです。
旧約聖書と新約聖書併せて66巻となります。旧約聖書は新約聖書の土台となるもので、旧約聖書と新約聖書両方合わせたものを私たちは「聖書」と呼んでいるのです。もしも無人島のようなところに流されて一冊だけ本を読むことを許されるとしたら、聖書を選ぶという人はたくさんいるのです。聖書には何回読んでもいつも私たちの心を満たす言葉があるのです。
旧約聖書は主にヘブル語で書かれました。その一部はペルシャ時代に広く用いられたアラム語で書かれています。新約聖書はキリストの時代にローマ帝国で広く用いられたギリシャ語で書かれています。聖書のギリシャ語は、ギリシャの古典に使われたものではなく、コイネーと呼ばれる日常使われたギリシャ語、一般の人々が使った言葉で書かれています。聖書は非常に長い年月をかけて書かれたものですから、書いたのも一人ではなく、約40人の著者がいます。それはもともと宗教の指導者であった人ばかりではなく、王様、政治家、学者、農夫、漁夫、徴税人、医者などいろいろな人生の背景を持った人々が書きました。
旧約聖書は、創世記から始まって、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記の5つの書までを「律法の書」と言って、モーセによって書かれました。これらの5つの書簡は「モーセ5書」とも言われています。
創世記はこの世界がどうしてはじまったかを説明し、人類の歴史の初期を記録しています。出エジプト記はその続きですが、この中には十戒という神が人間にお与えになった律法が出てきます。レビ記、民数記、申命記はそれに続く歴史や神の教え、その当時の社会の制度などを記しています。
その次のヨシュア記からエステル記までは、その後に続く歴史ですが、これはイスラエル人を中心にして書かれています。聖書の教えは抽象的なものもありますが、その大部分は、人間の実際の生活の中で、具体的な形で与えられています。ですからわかりやすくまた興味があり、実際的なものです。
その次のヨブ記は、ヨブという人の体験を通して人生の苦難の問題をとりあげています。詩編は主としてイスラエルの王ダビデの信仰の歌です。箴言とコヘレトは人生の実際的な問題を扱っていて、イスラエルの王であったソロモンが書きました。雅歌もソロモンが書いた愛のうたです。
イザヤ書から終わりのマラキ書までは預言書と言われ、いろいろな預言者が、イスラエルについて、またこの世界の将来について述べた預言です。その中には現代の世界に関係しているものもたくさんあります。
新約聖書はマタイ・マルコ・ルカ・ヨハネという四人のキリストの弟子によって書かれた、キリストの生涯についての記述から始まっています。これを福音書といって、いろいろな問題をかかえている人間に対して、ほんとうの幸いとは何かを教えるものです。
使徒言行録は、キリストの昇天後の初代教会の働きについて、当時の教会が迫害の最中にあってもいかに発展していったかを記しています。そのあとは教会や個人に与えられた手紙です。その大部分はパウロという初期の教会の有力な指導者が書きました。
新約聖書の最後にあるのはヨハネの黙示録で、聖書に証しされている神の救いの御業がどのように終わりの時代に実現されていくのかということが、黙示という形で預言され教えられています。聖書は、この世界の始まりから終わりまでを神の啓示によって教えているのです。
聖書をお求めになったかたから、よく、どこから読んだらいいかという質間を受けますが、まずよくわかるところから読まれたらいいと思います。初めて読まれる方は、新約聖書の福音書にはイエス・キリストの生涯について記してありますから、4つの福音書の中の一つを読まれたらいかがでしょうか。マルコによる福音書は最も短くまとめられています。福音書を読んだ後で使徒言行録を読むとイエス・キリストの生涯とその後の初代教会の歩みを理解することが出来ます。
旧約聖書であれば、創世記は世界のはじめの歴史ですから分かりやすいと思います。詩編や箴言、伝道の書なども味わい深い言葉がたくさんあります。また、この講座によって、聖書の骨組みとなっている思想を学ばれると聖書を理解する助けとなります。

2 聖書の特長
1) 聖書は神の言葉です。
実際に筆をとって書いたのは、モーセや、ダビデや、ペトロ、パウロなどのような人たちですが、これを彼らに書かしめられたのは神様です。
2) あらゆる人々、全人類に向けた救いの言葉です。
これは万人の、あらゆる時代、民族を越えたすべての人の本質的な問題と、その救いのために書かれました。ヨハネの福音書20章31節には「これらのことが書かれたのは、あなたがたが、イエスは神の子メシアであると信じるためであり、また、信じてイエスの名により命を受けるためである。」といわれています。これが聖書の書かれた目的です。
3) 実際に起こった歴史的な事実の中で語られた言葉です。
これは単なる思想ではなくて、この歴史の中に実際に起こったことがそのまま書かれています。従って、ここに書かれていることは、いずれも具体的であり、直接私たちの生活、私たちのあり方に関わるものばかりです。ここには人間のありのままのすがたが、かざらないで記されています。
4) 聖書は66巻で完結しています。
これに付け加えたり、削除したり、することは許されません。「聖書のみ」と「聖書全体」ということを心がけてこれに取り組むことが大切です。(ヨハネの黙示録22章18節)
5) このみ言葉とこの約束は変わることがありません
これは事実をそのまま書いただけではなく、これを書いた人は忠実にそれを後代の人に伝えてきました。印刷技術のないころはこれを手で書き記し、多数の写本によって聖書は残され、伝えられてきました。今日、聖書として残されている写本は非常にたくさん残されています。しかも、どれを見ても、その内容はほとんど同じです。旧約の時代にも新約の時代にも、これを神のことばとして、少しも間違わないように、これを書き写し、自らも生きる力を与えられていったのです。
神の言葉は、いつまでも変わることがなく、神の約束は必ず実現されるということが、聖書の歴史によっても分かります。
3 聖書の影響力
聖書が書かれた目的は、イエス・キリストに対する信仰による命を与えるものですが、神によってもたらされる命、神との関係の回復は、非常に多くの人々に、そしてこの世界に大きな影響を与え続けています。
(1)生命を持った神の言葉 ≪ 世界のベスト・セラー ≫
聖書は人間の持っている数多くの本の中で、非常に特色のある本です。まずそれは非常に古く書かれた本であるのに、今もなお最も広く読まれベスト・セラーとなっています。また15世紀にドイツのグーテンベルクが印刷機械を発明した時、はじめて印刷されたのは、ラテン語の聖書で、いわば活字文化のさきがけとなった本です。聖書ほど多くの人に読まれた本はありません。現在2500以上の言葉に翻訳されています。
(2)思想・文化・歴史への影響
1冊の本で聖書ほど人間の思想や文化に影響を与えたものはありません。特に西欧文化の土台には聖書の考えが大きな位置を占めています。聖書の思想は、文学、芸術、科学、音楽、法律、社会福祉、医療、教育など多くの分野に強い影響を及ぼしてきました。
ほんの一部のみですが、ご紹介させていただきます。私の生涯に最も深い影響を与えた書物は聖書である(マハトマ・ガンジー)。神と聖書なしに、この世を正しく統治することは不可能である(ジョージ・ワシントン(米国大統領)。聖書は、神が人間に賜った最もすばらしい賜物である。人間にとって望ましいものはすべて聖書にある(アブラハム・リンカーン)。私はこの時代に、偉人と呼ばれる95人の人を知っている。うち87人は、聖書を奉ずる人であった。聖書の特色はその特異性にあり、他のあらゆる書物を無限に引き離している(W.E.グラッドストン(英国首相)。私が毎日、もっとも愛読する書物、それは聖書です。私の辞書に”悲惨”という文字はありません。聖書はダイナミックなカであり、変わることのない理想を示すものです(ヘレン・ケラー)。私が獄につながれ、ただ一冊の本を持ち込むことを許されるとしたら 私は聖書を選ぶ(ゲーテ)。秩序正しく広がっている宇宙は、『初めに神が天と地とを創造した』(聖書の冒頭のことば)という、もっとも荘厳なことばの真実さを証明する(アーサー・ホリー・コンプトン(ノーベル賞受賞者)。四つの福音書にあるこれらの出来事(復活とその他の奇跡)の記録を学んでみなさい。そうすれば、あなたは確証済みの科学的事実や科学の原理の中には、何一つ、奇跡を信じることを妨げるものはない、ということがわかるであろう。アンブローズ・フレミング(日本の高校生を悩ませる「右手の法則」「左手の法則」で有名な英国の物理学者)。いかなる世界の歴史におけるよりも聖書の中には、よりたしかな真理がある(アイザック・ニュートン)。湯川秀樹博士が「私はどこから来てどこに行くのか知りたい。」と言われましたが、聖書にはその回答があるのです(大喜多 敏一(元北海道大学工学部教授、国立公害学び所大気環境部長)。
(3)個人生活への影響
聖書は個人の生活にも大きな影響を及ぼしてきました。各時代にわたって、あらゆる国の人々の、心の必要を満たし、生きる目的を与え、生活を豊かにし、嵐の多い人生に悩む人々に希望と平安を与えてきました。人生のすべての希望が失われてしまう死を前にしてもなお希望を与えてきたのです。聖書のローマ人への手紙15章4節に「これまでに書かれた事がらは、すべてわたしたちの教えのために書かれたのであって、それは聖書の与える忍耐と慰めとによって、望みをいだかせるためである」とあり、どんな時にも希望をもって将来をながめることができるのは、聖書に導かれる人の特権です。
聖書は、これを読む人の心や品性を変えてきました。「神の言は生きていて、力がある」とヘブル人への手紙4章12節に書いてありますが、聖書はただ一冊の本として読みすごせるものではなく、熱心に学ぶならば、生活に大きな変化を与える書物です。
(4)調和と統一
聖書は、職業も経験も時代も住んだ場所も異なる約40人の著者によって、1600年にわたって書かれたのですが、全体に調和と統一があることは不思議です。第二次世界大戦中に書かれた本と、現在のものとは考えが非常に違っています。時代が70年違ってもそうであるのに聖書の中では、1600年へだたっていてもその考えにくいちがいがなく、矛盾もないのです。哲学や倫理などにおいても、人生についての考えや、価値観、世界観について、学者によって皆違います。しかし聖書には、―貫した思想が流れていることは非常に不思議な事実です。
聖書の著者は、自分の考えを述べたとは言わないで、「神が言われた」と書いています。旧約聖書の中にこの意味の言葉が3800回以上も用いられ、新約聖書にも同じような表現が使われています。このような聖書記者の言葉は、確実な反対の証拠がないかぎり、簡単に否定することはできません。

(5)聖書の翻訳
ウィクリフ聖書翻訳教会によると聖書は現在のところ約2617もの言語に翻訳されています。このような書物はほかにありません。多くの言語に翻訳されているという書物でも、せいぜい50~60語程度です。
そして、現在でも、まだ聖書を母国語で読むことが出
来ない方々のために、聖書をその地域の方々に翻訳してお渡しするという働きが行われています。
旧新約聖書全巻の翻訳が完成した言語が、間もなく世界で700言語に達すると言われており、新約聖書のみの翻訳が完成した言語も、間もなく1550言語に達すると言われています。しかし世界には7千以上の言語があり、世界の5人に1人は、母語など自身が最も理解しやすい言語で聖書を読むことができません。そのため、現在も161カ国2617言語で聖書の翻訳作業が進められているのです。
日本では、すでに多くの旧新約聖書の翻訳聖書が数多く出されており、代表的なものとしては、新共同訳、新改訳、口語訳、現代訳、フランシスコ会訳、バロバロ訳、文語訳、創造主訳、リビングバイブルなどがあります。これだけ多くの旧約・新約のそろった聖書を手にすることが出来ることは誠に幸いなことです。

第1章 人生を導く聖書 理解のために
1)聖書の最も古いものは、今からおよそ( 年)前に( )によって書かれ、最も新しいものは約( 年)前に書かれました。
2)旧約聖書の箴言とコヘレトは、イスラエルの王であった( )によって書かれ、詩編のうちの多くのものは( )によって書かれました。
3)聖書が他の書物を違う点はどういうところにあると思いますか。
4)聖書の究極的な著者は誰ですか。また、なぜそのように言うことが出来るのでしょうか。
5)聖書は人々にどのような影響を与えてきましたか。
